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第8回  〜プロモーションビデオの作り方〜

開発さんには迷惑なだけのビデオ撮影

 前回は、ゲームのVPとは、いかなるものか? という話をした。今回はVPがいかにして、できあがるか? の話。 まずは制作スケジュールだが、これはこちらが独自に決めるのではなく、通常、営業のほうから依頼がある。VPを実際に配ったり業者に見せたりするのは、営業の仕事のため、VPの制作期間は営業のスケジュールと密接にリンクしてなくてはならないからね。
 営業がVPを必要とする日から逆算して、ビデオを制作する業者に依頼し、制作スケジュールを決定する。スケジュールが決まったら、撮影する日を開発担当者に連絡。撮影用の素材をできるだけ用意してもらうため、担当者にお願いするわけだ。だいたい、そんな時期は開発のほうもテンパッているので、露骨に迷惑な顔をされることもある。が、露骨な顔には卑屈な態度で望むしかない。こういう如才のなさも、VP担当者の重要なスキルといえる(笑)

気の遠くなる撮り込み作業

 この時点で、ある程度ゲームが完成しており、サンプルROMなどから直接ビデオに撮り込める場合は、先に構成を決めておく。そのほうが、内容に必要なシーンのみを撮影すれば良いので、効率がいい。しかし、そういうことは、年に1度あるかないか、くらいのものだ。そもそも、VPにはサンプルROMの代わりに見せる、という目的もあるくらいで、まだサンプルができるほどゲームの開発が進行していない場合が多いのだ。

 撮影は、動くROMがあれば、ゲーム機を機材に直結して撮影する。その場合、操作は、開発の企画担当に解説してもらいながら操作してもらう。
 必要なシーンを撮影するためには、その部分をあらかじめセーブしておいたり、撮影用に自由にシーンを行き来できる機能をプログラマーにつけてもらうこともある。この機能はビデオのためにわざわざ付けてもらうというより、本来、開発中はデバッグ機能として用意されていることが多い。これが残ったまま出荷されると、いわゆる裏技とか秘技とかウルテク(古ッ!)とかになってしまうわけだ。

 そういう機能がない場合や、セーブデータが用意できない場合は、普通にプレーして撮影するしかない。プレーに時間のかかるRPGなどは、デバッグ機能がないと撮影は時間的に不可能、ということもあるので、そういった場合は開発に相談して、わざわざ、それ専用のシーンを開発ツール上で再現してもらうしかない。
 キツイのはランダム要素のあるシーンなどだ。欲しいものが出てくるまで何度も繰り返し操作する。欲しいシーンが一瞬だったりすると、その間延々とテープを回しっぱなしにしていなければならない。テープが終わったら、巻き戻して、また再開…を繰り返すわけ。根気だけの勝負で、精神的にしんどい作業だ。

 ランダムのシーン撮影で特にしんどかったのは、パチンコゲームだ。開発が間に合わない場合、本物のパチンコ台の液晶部を撮影することになるのだが、これは実際に玉を打ってリーチや大当たりを出さなければならないのだ。なにしろ本物なので、そうやすやすと大当たりが出るはずもない。1台の大当たりシーンを撮影するのに、半日を要することなどざらである。この撮影に立ち会うと、つくづくパチンコというものは、儲からないようにできているというのが実感できるぞ。

バックドロップしかできてないプロレス、歩くだけのRPG!?

 撮影が終わったら、撮影した素材をタイムコードを入れたままVHSにダビングして粗編集をする。これをオフライン編集という。タイムコードというのは、1フレームごとに付いている番号で、流出ものの裏ビデオなどでお馴染みのアレだ。あ、そんな例えしなくても、いまのデジタルビデオカメラならタイムコード機能があるな(笑)
 このときのタイムコードを記録したタイムシートを元に、スタジオで本編集をおこなう。

 さて、開発の遅れで素材がまるっきり不足している場合は、トンチで乗り切るしかない。
 ひどい例では、キャラがバックドロップしかしないプロレスゲームや、ひたすらフィールドを歩くシーンしかできていないRPGなど、こんなもんどうせえちゅうんじゃ! と文句のひとつも出てしまうものも多い。
 そもそも、ここまでゲームが出来ていなければ、発売が伸びるのは決まっているのだから、もう少し後で作っても良かろうという正論もでてきそうだが、システムというのは、そうそうフレシキブルにできないものなのだ。
 そのような場合、キャラクター設定の絵を繋げるとか、スタッフのインタビューなどを入れて強引に乗り切ってしまう。よくそういうビデオを観たことがあるでしょ? あれは大抵、開発が全然間に合わない時の苦肉の策なのである。本当に何もない場合、ありもののイメージ風景に、紙に描いたキャラクターなどを合成し、ストーリーをひたすら語っている、という、もうすでになんのビデオか、全くわからない作品すらあった。

 こうして、死ぬ思いで作った映像は、ナレーションや音楽などを付けるMA作業によって完成する。苦労のわりに、意外と人に見られるものでないのが悲しいし、いきなり発売中止になって、完成したビデオそのものが日の目を見ないことだってある。
 でも、ここでつちかった構成技術は、いまになって大変役立っているから、自分にとっては本当によい経験をさせてもらったと思うのだ。人間、やらなきゃならないことは、とりあえずなんでも一所懸命やっておいた方が得だよ。

TEXT By.吉岡たかを
アニメ・ビデオ・ゲーム業界を経てフリーになった執筆屋。
広告、雑誌、アニメやゲームの脚本など、無節操に書き散らしてきたが、近頃は脚本業に専念しつつある。

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