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第12回  〜健全な青少年って誰だ?〜

これまでの自主規制というもの

 Hな青年コミックの背表紙などに「成人向け」とか書かれているのを見かけたことがあると思う。これは、出版者側が子供が間違って読んだりしないように、と区分けする意味で出版社がそのような表記を付けているわけだ。当然、売り場も、一般のコミックとは区分けされた棚に置かれている。
  このような表記になったのは、宮崎事件が社会問題になってからのことだと記憶している。その当時、可愛い表紙なので、小学生の女の子が買おうとして、その中身を観たお母さんが死ぬほど驚いた! という事件があり、その件が問題化されたことも大きかったという。でも、さすがにこの話は、作りじゃないかと、私は踏んでいるんだけどね。
 それはともかく、現在、表現の規制という意味では、単なる性描写だけではなく、残酷描写、差別問題などといったものも、その対象になっている。規制の緩かった過去の作品の復刻版などは、危なそうな所は変更されていたり、お題目のように「この作品は昔のものなので、色々問題になる箇所がありますが、作品のテーマや時代性を重んじて・・・」といった言い訳が書かれているはず。
  これらは自主規制というもので、文句を言われる前になんらかの処置をしておく保険のようなものだ。

国がメディアを規制しそうな気配が・・・

 例を挙げるまでもなく、最近は様々な少年犯罪や特殊な凶悪犯罪が増えている。そのためにいままでの自主規制や条例規制じゃ全然効果が上がらん! と思った人たちが青少年向けメディアを、法でもって規制するといった動きが急激に進展している。これがメディア規制法案だ。
 正しい名前は『青少年有害環境対策基本法案』というめんどくさい名前で、 「青少年の健全な育成を阻害するおそれのある社会環境からの青少年の保護に関し、その基本理念を定め、国、地方公共団体、事業者、保護者および国民の責務を明らかにするとともに、青少年の健全な育成を阻害するおそれのある社会環境からの青少年の保護に関する施策を総合的に推進し、もって青少年の健全な育成に資することを目的とする」
 ・・・という、これまたすごい日本語の内容である。まだ、この法案が通ったわけではないが、具体的にどういったことをするか? というのは、色々な案が出ているようだ。私は政治的なことを熱く語れるほどの人間じゃないし、原則として自分の半径10メートル以内程度の事柄しか、このコラムで書く気はない。詳しく知りたい人は『メディア規制法案』などといったキーワードで検索してみよう。

健全に育成された青少年を見てみたい

 この『メディア規制法案』が問題視されているのは、簡単に言うといままでみたいに、その地方で有害図書を指定するようなやり方は手ぬるいので、もっと国レベルでガンガン規制しようというような考えがあるからだ。これは、もちろんテレビやTVゲーム、インターネットなども規制対象とされている。規制するということは、すなわち見えなくすること、といっていい。この手の話題で良くいわれる「臭いモノにフタ」というヤツだ。
 こうトンデモない事件が続発する昨今、社会的には、なんらかのアクションは取る必要はあるだろう。野放しにしといては、普通に生活している我々は、不安でしょうがないからね。役に立つ立たない以前に、安心する材料は必要なのである。問題は、不安が消えても、実際に起こした規制法案などのアクションが、そういった犯罪防止に効果があるか、ということだろう。
 規制法案の内容の文章中には『青少年の健全な育成』といったフレーズがやたらと出てくることに気づいたと思う。私がいつも気になるのは、この健全な青少年というヤツなのだ。これを読んでくださっているみなさんの中に、「わたしは健全な青少年です」と胸を張って言える人が居るだろうか? あるいは「ヤツこそ健全な青少年だ」だと思える知り合いや友人がいるだろうか? 私はいままで生きてきた中で、そういった人を見たことも聞いたこともない
  「そりゃ理想だから当然だろ? 理想というのは、現実化しないから理想というのだ」という人もいるかも知れない。私も同感である。が、架空の理想像でもいいから、具体的に示して欲しい。健全な青少年というのがどういった人間か、ということを!
 ・・・などとひとりで興奮しなくても、規制しようとしている人たちが、どんな健全な青年を想定しているかは簡単に推測できる。要は、なにを規制しようとしているかを見ればいい。健全な青少年、ときた場合、規制の対象は、通常性描写と残酷描写だ。メディア側の自主規制というのであれば、これにとどまらず、差別・皇室絡みなど色々あるが、こっちは自主規制というより自主防衛規制であるから、自分的には納得できなくもない。

プーさん読んで人殺し??

 さて、性描写と残酷描写が規制対象にされているということは、健全な青少年に不要なのは、性的なものと残酷なものということになる。あるいは、それらにに触れないまま育った人と解釈してもいいだろう。なんだか私が極端な事を言っているみたいだが、この法案に関わっている国会議員の人はこんなことを言ってる。
  「(略)例えば、『くまのプーさん』は良い本といわれていますが、大きなマサカリで殺すシーンが出てくる。このような場面があると、子供達は動物や人を殺すことがどうでも良くなってしまう。おおいに自主的な気持ちを働かせて、残虐シーンはなくして穏やかにして欲しい」(『』00年7月号より引用)
 プーさんだよ、プーさん・・・。私の言っていることよりも、よっぽど極論めいているのがわかるでしょ? しかし、もう少しマシな例は思いつかなかったんだろうか?
 プーさんの件は、洒落だと思って笑いたいが、実際問題、この一連の規制の仕方には重大な欠陥があると私は思っているのだ。
 ・・・というわけで、次回に続きます。

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