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第24回  〜脚本家の知られざるお仕事1〜

 演劇用語でホン読みというのがある。読み合わせともいう場合もあるそうだが、このホン読みというのは、役者が台本を読みながら行う、最も初期の稽古のことだ。
 私たちの業界のホン読みというのは、これとは全く違うもので、できあがった脚本を検討する打ち合わせのことを言う。なぜに同じ用語を使うのかはわからない。
 今回は、アニメファンもよく知らない、つうか、スタッフも実情を知らない人が多い、ホン読みのお話し。

 ホン読みとは?

 ホン読みには、脚本家はもちろん、監督、プロデューサーが立ち会う。他にも、スポンサーが立ち合ったり、広告代理店が立ち合ったり、原作ものだと原作の担当編集が立ち合ったり、場合によって参加するメンバーは様々だ。テレビシリーズになると、脚本家も複数になるため、更に参加人数も増える。
 ビデオシリーズなどは、今まで例外なく私一人で書いていたので、脚本家一人(つまり私)に対し、意見をいうスタッフが5名以上、多いときは10名近くおり、1対10で議論しなければならない局面など日常茶飯事だ
 さて、スタッフが全員集合したら、ホン読みと言うくらいなので、まずは皆で出来上がった脚本を声を揃えて読む。この時は出来るだけ大声で読むのが礼儀だ。
……というのはもちろん嘘である。
 参加する人はホン読みの数日前に届いた脚本を、事前に読みこんで内容をチェックしておくのが普通だ。だから、実際のホン読みでは、脚本の内容の検討が中心になる。
 しかし、脚本がギリギリまで上がらなくて、ホン読みの場で脚本が初めて配られる場合や(これは持ち込みと呼ばれ、当然みんなに嫌がられる)、監督が多忙で脚本を読み込む時間がない場合など、ホン読みの場で脚本を黙々と読むことも結構ある。

 ホン読みがはじまると、できあがった脚本を元に、それぞれのスタッフがそれぞれの立場からの意見を述べる。
 ここで言っておくが、最初に書いた脚本(初稿または第一稿と呼ばれる)が、そのままOKになることは死ぬほどマレである。私自身、初稿OKというのは、今までに数えるほどしかない。
 脚本は、それ自体で完成されたものではなく、あくまで作品の設計図のようなものであるから、これは当然なのだ。

 叩かれるのも仕事のウチ

 とにかく、脚本の仕事とは、自分の書いたものを徹底的に叩かれる仕事であるのは間違いない。
 叩く、というと聞こえが悪いが、アニメに限らず映像作品は共同作業で作られるものであるから、周辺の事情や監督の演出意図を示してもらうことは、脚本を構築する上でとても重要なのだ。様々な意見をもらって調整するのも脚本家の仕事である。
 とはいえ前向きな意見というのはわかっていても、自分の書いたものを色々言われるのは、少なからずストレスになる。これに耐えられない人は、まず脚本家にはなれない。
 大切なのは、出された意見をちゃんと理解し、納得して自分の中に取り込み、脚本をきちんとリライトできるかである。
 意見を言う人が脚本家ではない場合、気になる部分だけ見て指摘する事も多いため、ここをこう直して欲しい、と言われて、何も考えずそこだけ直すと、話の構成がグチャグチャになる場合が結構あるからだ。だから、納得のうえで直さないと、結局自分が苦しむことになる。

 また、それぞれの立場からの意見、というのがくせ者で、人によって全く意見が食い違うこともある。
 原則として、監督の意見が最も重要とされるが、プロデューサーと監督の意見が、真っ向からぶつかって両者、矛を収める意志が全くない、ということもあり、こんな場合、脚本家は非常に困る。
 こういう場合、脚本家はどうするか? おおざっぱに言うと、3つのパターンがある。
 両者の意見を聞いてどちらかに荷担する、両者の議論のけりが付くまで黙って眺めている、折衷案などを出してその場をとりまとめるなどだ。どのパターンを取るかは、その場の空気によって判断する。
 この判断をミスると、全部この脚本が悪いのだ! という最悪の結果を導き出されることがあるので、注意が必要である(笑)

この項、次回も続きます。

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